【イベント☆レポート】エビデンスに基づいたヘルスケアサービスの開発や利用が進む社会の実現に向けて ~AMEDが医学会等と進める予防・健康づくりのエビデンス整理についてステークホルダーと意見交換~
日本では、社会保障制度の逼迫などにより、健康寿命延伸や公的保険外の健康増進活動への関心が高まりをみせており、多様なヘルスケアサービスが普及しています※。しかしながら、治療や診断にかかわる医療製品やサービスに比べると、ヘルスケア関連の製品やサービスは科学的なエビデンスに基づいているものは、まだ多くありません。健康長寿社会の実現には、サービス提供者(提供事業者、開発事業者など)およびサービス利用者(自治体、健康経営企業、健保組合など)が価格やプロモーションだけでなく、エビデンスに基づいてサービス開発や利用が出来ること、また、そのための社会基盤の整備が必要となっています。
※経済産業省産業構造審議会の資料より(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/013_03_00.pdf)
AMEDは令和4年度より「予防・健康づくりの社会実装に向けた研究開発基盤整備事業(ヘルスケア社会実装基盤整備事業)」を開始しました。現在、関連医学会と連携し、予防・健康づくり活動の現時点でのエビデンスを整理した指針策定を進めています。今回、令和6年2月13日に、丸ビルホール&コンファレンススクエア(東京丸の内)で「第3回 予防・健康づくり領域の社会実装に向けたシンポジウム」を開催しましたので、その内容を紹介します。
1. ヘルスケア社会実装基盤整備事業について
国内におけるヘルスケアサービス(公的医療保険制度によるものを除く)について、エビデンスの構築状況やサービス開発・普及のための制度がまだ不十分な状況です。AMEDは、予防・健康づくりのためのヘルスケアサービスについて、科学的なエビデンスに基づいた社会実装を促進するために、「予防・健康づくりの社会実装に向けた研究開発基盤整備事業(ヘルスケア社会実装基盤整備事業)」を開始しています。事業での取り組みの一つとして、一般社団法人日本医学会連合とその参画学会(以下「医学会」)と連携して、図1に示すような予防・健康づくり活動について現状のエビデンスの整理を行い、指針の策定を進めています。令和4年度より、中年期の健康課題(高血圧、糖尿病、慢性腎臓病)、老年期の健康課題(認知症、サルコペニア・フレイル)、職域の健康課題(メンタルヘルス、女性の健康)の7領域の1次予防に関して、令和5年度より、働く世代の健康課題(循環器疾患、脂肪肝関連疾患、女性の健康)の3領域の2次、3次予防に関して指針策定に取り組んでいます。現在、図2に示す通り、40以上の医学会に参加いただき、エビデンスの整理を進めています(詳しくはこちら:https://healthcare-service.amed.go.jp/)。指針策定やその普及にはヘルスケアサービス利用者、提供者などとのPPI(Patient and Public Involvement:研究への患者・市民参画)による連携が肝となっており、今回のシンポジウムもステークホルダーとの意見交換の機会として開催されました。
2. シンポジウム概要
今回のヘルスケアシンポジウムは、令和6年度に見込まれる事業成果物となる予防・健康づくりのための指針や研究手法を普及するための機運醸成を目的として開催しました。
セッション1では、「エビデンスに基づく予防・健康づくりの現在地」として、医学会が作成を進める指針を中心に、各ステークホルダーからヘルスケア領域の現状や期待などをご紹介いただき、社会実装の仕組みについて議論しました。セッション2では、「予防・健康づくりのサービスに求めるエビデンス」として、利用者や事業者が直面する課題を共有し、社会実装に向けたヘルスケアのあり方を議論しました。
今回は、ヘルスケア領域の専門家、サービス提供者・利用者といったステークホルダーが約230名来場し、オンライン参加を含め全体でおよそ1000名が集い、ヘルスケア分野を取り巻く現状と課題、今後の展望について、登壇者の発表に熱心に耳を傾け、活発な意見交換を行いました。
3. 開会挨拶と基調講演
冒頭では、三島理事長の挨拶に始まり、一般社団法人 日本医学会連合/日本医学会 副会長 磯博康氏より基調講演「日本の保健医療における予防・健康づくりの重要性」がありました。
4. セッション1:エビデンスに基づく予防・健康づくりの現在地
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 課長補佐 小栁勇太氏、厚生労働省 健康・生活衛生局 健康課 課長補佐 上原真里氏、京都大学大学院 医学研究科 教授で本事業プログラムスーパーバイザー 中山健夫氏、マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパン パートナー 酒井由紀子氏の4名から話題提供がありました。
話題提供後は、「ヘルスケアサービスのエビデンスをいかに構築するか」というテーマでモデレーター 本事業プログラムオフィサーで佐賀大学医学部長の野出孝一氏のもと、有識者による総合討論が行われました。
討議に入る前に、参加者にアンケートを実施し、今回の予防・健康づくり領域の指針に対するイメージをご回答いただきました。アンケートの結果では、「産業育成」や「規制緩和」といった回答が多く、指針が産業に与える影響に高い関心が寄せられていることがうかがえました。
■ セッション1での総合討論
プログラムスーパーバイザー中山健夫氏
「サービスの開発者、採用する組織、そして最終的な利用者を意識して、それぞれがどの程度のエビデンスを必要としているか、それが誰の意思決定に役立つかを整理していく必要があると思います。」と話され、今回の指針は医学会から発信される点が信頼性担保に重要である点や継続的な改訂の必要性も説明されました。
マッキンゼー・アンド・カンパニーの酒井由紀子氏
「ヘルスケア領域には、競争すべき部分とそうでない部分があります。サービスを開発する事業者が指針を参考にし、業界全体で協力して共通の基準を確立することで、利用者側も指針を参考により良い意思決定や選択ができるようになります」とし、「保険者や地方自治体、雇用主、企業が利用できるポータルサイトや情報収集の場など、情報が一元的に提供されることが重要です」と話されました。
PHRサービス事業協会の古屋博隆氏
「このサービスを利用すると、こんな行動変容が期待できると主張する場合、その根拠を明確に示す必要があります。私たちは、サービスの品質を確保しつつ、サービスの成長や新規参入を促進するために、エビデンスに基づくアプローチを重視し、エビデンス構築を推進するガイドラインを策定しています。今回のAMEDが進める指針とも連携した策定を行っていきたい」と話されました。
日本デジタルヘルス・アライアンス(JaDHA)の小山智也氏
「現在ヘルスケア産業は、まだ方向性を模索している段階です。JaDHAでは、ヘルスケアサービスの類型化に向けて話し合っています。健康無関心層の行動変容は難しいですが、長期的なデータ収集で方向性が明確になると考えます」と話されました。
健康長寿産業連合会の樋口毅氏
「情報が共有される場を整備する必要性を感じており、情報が一元化されることで、企業が取り組むべき課題や成果をより明確に把握できます。さらに、各企業が情報を公開する仕組みが整えられれば、提案や取り組みの効果に関する情報も総合的に管理できるでしょう」と話されました。
経済産業省小栁勇太氏
「指針は、誰もが理解しやすいものであるべきです。アカデミア向けではなく、事業者や利用者にも分かりやすい形で提示されるべきです。事業者はサービス開発において適切に指針を参照し、それをビジネス開発に生かすことが重要です」と話されました。
5. セッション2:予防・健康づくりのサービスに求めるエビデンス
「予防・健康づくりのサービスに求めるエビデンス~ステークホルダ毎のサービスへの期待のギャップ~」をテーマとして、利用者と事業者のエビデンスに対するが考え方のギャップを議論しました。
まず、健康経営アライアンス 事務局長の神谷直輔氏、PHRサービス事業協会 副会長の高木俊明氏、日本デジタルヘルス・アライアンス会長の小林義広氏、医療機器・ヘルスケア事業部 ヘルスケア研究開発課 主幹の阿野泰久の4名より話題提供がありました。
話題提供後は、ヘルスケアサービスの利用者、提供者が考えるエビデンスについて、医療機器・ヘルスケアプロジェクト プログラムディレクターで国立循環器病研究センター名誉所員の妙中義之氏にモデレーターとして登壇いただき、有識者による総合討論が行われました。
ここでも討議に入る前に、ヘルスケアサービスを利用するエンドユーザーにエビデンスの重要性を理解してもらうことが、社会実装においてどの程度影響を与えるのかについて、参加者にアンケートを実施しました。調査結果では、「影響があると思う」が53%、「強い影響があると思う」が39%と9割以上の参加者がエンドユーザーにもエビデンスを理解してもらう必要性を感じていることが明らかになりました。
■ セッション2総合討論
プログラムオフィサーで慶應義塾大学教授の後藤励氏
「ヘルスケアサービスの目標にある行動変容から、医療費の削減といった効果も期待されています。しかし、長期的な費用対効果の評価は容易ではありません。研究ではどうしても長期的な予測になり、事業者に対して、費用対効果が高いと伝えることは難しい場合があります。そのため、利用者とメーカー側の間には、理解のギャップが生じる可能性があります」と話されました。
株式会社ニッスイの岩井孝久氏
「弊社では、従業員の健康増進を目的として導入したアプリを採用していますが、利用率は15%にとどまっています。利用率を向上させるには、エビデンスに基づく裏付けが必要ですし、効果を持続的に実感できる内容でなければ、モチベーションを維持することが難しいと思います」と話されました。
SCSK株式会社の杉岡孝祐氏
「人事の立場から見ると、エビデンスに対する関心があまり高くないのが現実です。健康経営を推進するには、進める覚悟を明確なメッセージで伝えるとともに、インセンティブを導入することが重要だと考えます」と話されました。
神奈川県政策局 いのち・未来戦略本部室の牧野義之氏
「効果については、短期的に見れば医薬品の方が優れているかもしれません。しかし、ヘルスケアは長期的な視点で継続可能かどうかや、喜びを感じられるかが重要で、個々人の生活や選択に応じたアプローチが求められていると思います」と話されました。
株式会社PREVENT萩原悠太氏
「エビデンスに基づいたアプローチが求められていますが、それが適切に評価されているようには思えません。例えば、自治体のプロポーザルの採点基準には、医学的な根拠に基づいたサービスが含まれることが多いですが、提供企業としては、重要視するというところと、意思決定するというところに大きなギャップがあると感じています。」と話されました。
株式会社JMDCの坂井康展氏
「私たちは健診とレセプトデータを収集し、17年間分のデータを蓄積してきました。しかし、管理コストが莫大なうえ、ヘルスケアの改善を見るためのデータエビデンスを構築したいという要望に対しても、標準化などといった課題から対応することができないのが実情です」と話されました。
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 課長の橋本泰輔氏よりシンポジウムの総括後、参加者同士の情報交換を図ることを目的に、アカデミア、サービス提供者、サービス利用者、本事業におけるステークホルダーの皆様とのネットワーキング・交流会、公募説明会が行われ、シンポジウムは熱を帯びたまま終了しました。
本シンポジウムの様子は下記AMED YouTubeチャンネルで公開されています。
https://www.youtube.com/watch?v=49KgUCN5qBM
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