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【AMED事業◎クローズアップ】組織胎児化による複合的組織再生法の開発_挑戦的な課題に挑む!AMEDムーンショット事業プロジェクト紹介②

ムーンショット目標7「2040 年までに、主要な疾患を予防・克服し 100 歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現」を目指す、AMED(エーメド)が推進する「ムーンショット型研究開発事業」。 “長生き”というキーワードは多くの方が関心をお持ちだと思いますが、高齢化社会でもより多くの方が人生を楽しめるような“健康で長生き”を実現するため、AMEDは9つの研究開発プロジェクトを推進しています。

 今回はその内の一つ、「組織胎児化による複合的組織再生法の開発」について迫ります。


“組織の胎児化”で
失った組織や器官、若さを取り戻す

“組織の胎児化”と聞いて、皆さんはどんなイメージをお持ちになるでしょうか。生き物の体は細胞と呼ばれる小さな単位からできており、母体のなかで受精卵から分裂分化を繰り返し、形成されていきます。

体の一部分へ遺伝子を導入して、その場所の組織を体が形作られてくる胚や胎児と呼ばれる時期に近い状態にする、これをこの研究では “組織の胎児化“と呼んでいます。この”組織の胎児化“により、失った組織や器官、若さなど、生活の質(QOL)にかかわる機能を再獲得することを目指す挑戦的な研究が、東京大学医学部附属病院形成外科の栗田昌和講師の進める「組織胎児化による複合的組織再生法の開発」です。

出典:2022年7月16日ムーンショット目標7シンポジウム栗田 昌和講師「組織胎児化による欠損組織再生法の開発」資料

“細胞のリプログラミング”技術を駆使

そして、組織を胎児に近い状態にするための手法が、遺伝子導入技術を活用した、“細胞のリプログラミング”です。

リプログラミングとは細胞の初期化を意味しますが、栗田講師の研究では、“初期化”までせず、“ダイレクトリプログラミング”という、種類の決まってしまったある細胞から別の種類の細胞に“変える”技術を活用しています。材料となる細胞に対して目的とする細胞を特徴づける遺伝子を導入することによって、より直接的に細胞の種類を変えることが可能です。

AMED研究開発統括推進室基金事業課でこのプロジェクトを担当する松本隆さんは、「栗田講師の研究は、まさにムーンショット的と言えるワクワクするような挑戦的な内容です。手足をはじめとする器官や臓器を再生したり、皮膚・筋肉・骨などの若返りを図ったりする方法は夢のように感じるかもしれませんが、技術は一歩一歩進んでおり、大きな期待が寄せられています」と話します。

研究に至るきっかけと見えてきた可能性

栗田講師はこれまで、形成外科医として、糖尿病や腎臓病などにより手足の血液の流れが悪くなって起こる手足の壊死や床ずれなどの治療に取り組んできました。その中で、寝たきりの高齢者の方の体への負担を軽減するため、手術をせずに短期間で傷を修復する治療法を開発したいと思い、現在の研究に至ったといいます。

 まず、皮膚の表面を覆う表皮と呼ばれる組織を形作るため、表皮細胞へのダイレクトリプログラミングの研究を進めました。
傷の表面には体の外側の壁、即ち表皮として働くことはできない線維芽細胞などの細胞がたくさん存在しています。そこでこの研究では細胞培養を用いた実験を行い、線維芽細胞に表皮細胞が持つ特徴的な4つの遺伝子を導入することによって、表皮細胞にダイレクトリプログラミングできることを示しました。モデル動物を用いた実験では、この手法により、傷口の線維芽細胞から表皮組織が形成され、傷の大きさによらず速やかに傷を閉じることに成功しました。
 
傷を速やかに閉じる事の先にはどのような可能性があるのか。
手足をはじめとする器官や臓器を再生させるためには、血管や骨などを機能させなければなりません。

「健康な皮膚は、皮膚の付属器と呼ばれる毛包や毛乳頭などの毛髪に関わる器官や脂腺と呼ばれる皮膚に潤いを与える器官を持っています。マウス実験において、胎児期の皮膚の前駆細胞にダイレクトリプログラミングすることにより、傷から付属器のついた皮膚を作ることができるようになりました」と栗田講師は話します。

このように、付属器の発生の前の段階の組織に近い状態に細胞をダイレクトリプログラミングすることにより、機能を持った組織を誘導することが可能であり、今後は、より大型の複合的器官を再生する方法の開発を目指しています。ゆくゆくは病気やケガ、老化で失った手足が再生する可能性も夢ではないということになります。

2022年7月16日に「100歳でも健康に生きられる 医療の実現に向けて-ムーンショット目標7 シンポジウム2022-」で講演を行う東京大学医学部附属病院形成外科の栗田昌和講師

失った組織・器官、加齢によって失われていく
若さを取り戻し、活力ある社会生活へ

この方法を開発することによって、日常生活はどう変化し、どういった場面で将来の人々の生活の質、すなわちQOLが変わるのでしょうか。
栗田講師はこの研究の展望として「失われた手足を再生する、歳を取ることによって生じた肌や脂肪、さらには体を動かすために重要な役割を果たす筋肉や骨、これらの組織を若い頃の状態に回復するといった、現状では成し得ないことを局所的に可能とする手段を開発し、体の不自由な人々や高齢者などの社会参加機会を増やし、個人個人の活力を上げ、社会全体の活力アップに繋げる道筋を作りたいと考えています」と語ります。

その技術の先に見える、医療応用への今後の期待

本研究では現在までに、傷口における毛髪や皮膚付属器の新生、局所的な脂肪組織、軟骨組織、筋組織の再生を実証しており、それぞれ潜在的な医療応用の可能性を見出しています。また、傷口のより表面に近い場所(浅層)に特異的に遺伝子導入を可能とする手法の開発も進めました。
 
事業担当の松本さんも「栗田講師のプロジェクトでは、失敗を恐れずに非常に難しいテーマに取り組んでおり、AMEDとしても応援しています。ムーンショット事業の目標である2040年には、この研究の成果が日常生活の質の向上に大きく貢献することを願っています」と、ムーンショット目標7で掲げる“負荷を感じずにQOLの劇的な改善を実現”に大きな一歩となる革新的な研究になると、今後の研究開発に期待を寄せました。

AMEDムーンショット型研究開発事業では、ムーンショット目標7の実現に向け、今後も各研究開発プロジェクトを支援していきます。

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