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【イベント☆レポート】AMEDがんシンポジウム 「しる×しる×みちる ~がん研究のこれまでとこれから~」

AMEDがん研究は平成26(2014)年度に開始された国の「がん研究10か年戦略」に基づいて、長期的な視点を持って推進されてきました。「AMEDデータブック2022年度 」によれば、令和4年度にAMEDで支援したがんの研究課題数は638課題あり、AMEDの研究開発全体のうち、およそ4分の1ががんの研究開発であることがわかります。
AMEDがんシンポジウム「しる×しる×みちる」は、がん研究の進捗や成果をわかりやすくお伝えすることを目標に、毎回テーマを設定して開催しています。

今年度は、がん研究10か年戦略(第5次)が新しくスタートした節目にあたることから、「がん研究のこれまでとこれから」と題して、この10年でどんな研究成果がうまれ、がんの治療はどう変わってきたのか、そしてこれからどのような研究開発が進められ、どう変わっていくのか、についてお伝えしました。

AMEDがんシンポジウム「しる×しる×みちる」では、参加者からの事前質問や、発表者から参加者へのリアルタイムアンケートなど、双方向コミュニケーションの形を取ることが恒例になっています。そのシンポジウムの内容をご紹介します。


【リアルタイムアンケートとは・・・?】

食道がんの術前治療の開発についてお話しいただいた加藤先生は、視聴者の皆様へ『本研究成果は食道癌診療ガイドラインに掲載されましたが、がん治療における「ガイドライン」をどのくらいご存知ですか?』とアンケートを行いました。
視聴者の皆様は、画面から回答を選択することができ、集計結果は、以下のように、リアルタイムに画面上に示されます。

「① 現時点で最も推奨されている標準治療が掲載されていることを知っている」62.6%
「② 名前は聞いたことがあるが、詳細は良くわからない」19.1%
「③ よく知らない」18.3%

座長の大津先生は、「視聴者の皆様の関心が高いことがうかがえます」と述べられ、また、加藤先生は、「標準治療が掲載されていて、それが最も推奨されているということをご存知であるということは、普段から情報を集められている方も多いのかなという印象です」とお話しされました。



1.開会挨拶

会の冒頭、AMEDがん疾患コーディネーター(DC)の国立がん研究センター理事長中釜斉先生からシンポジウム開会のご挨拶がありました。国のがん研究10か年戦略(第5次)が新たにスタートしたことに触れ、シンポジウムの趣旨についてご説明いただきました。

疾患領域がんDC 中釜斉先生による開会挨拶

近年のがん医療は、治療薬開発が急速に進み、治療効果、生存率が改善していること、それを支えているのががん研究であり、AMEDのがん研究の進捗、そして展望をお知らせしたい、と述べられました。

2.がん研究のこれまで

続いて、AMED革新的がん医療実用化研究事業(以下、「革新がん事業」)プログラムオフィサー(PO)のがん医療創生機構 理事長 / 国立がん研究センター東病院 名誉院長である大津敦先生(写真:左)が座長を務め、神戸大学の清田尚臣先生、国立がん研究センターの加藤健先生、国立がん研究センターの後藤功一先生の3名の先生よりこれまでに得られた研究成果についてお話しいただきました。
その後、AMED革新がん事業プログラムスーパーバイザー(PS)の名古屋医療センターの名誉院長である直江知樹先生に、3名の先生方の発表と「がん研究のこれまで」を総括していただきました。

「患者報告アウトカム(PRO)で目指す新たながん治療開発」
神戸大学 清田 尚臣 先生(右)

従前は、がんの治療開発研究において、患者さんの症状や副作用は医療従事者が客観的に評価していましたが、清田先生は、患者さん自身が症状や副作用を評価する「患者報告アウトカム(PRO: Patient Reported Outcome)」において利用される評価尺度を開発しました。これによって、患者さん自身が、治療を適切に評価した結果が、研究開発に反映されるようになりました。清田先生は、「患者さんが自分のことを評価して、医療従事者に伝えるツールがあることをこの機会に知っていただけたら」とお話しされました。

「食道がん術前治療の開発 ~日本の標準治療を世界へ~」
国立がん研究センター 加藤 健 先生

これまでの食道がんガイドラインでは、術前CF(5-FU+シスプラチン)療法が標準治療となっていました。加藤先生は、治療成績を改善するため、より強力な抗がん剤をCF療法に加えた「DCF(CF+1剤(ドセタキセル)併用)術前化学療法」と、CF療法に放射線治療を加えた欧米の標準治療である「術前化学放射線療法」を日本の標準治療である「術前CF療法」と比較する3群ランダム化試験を行い、DCF療法が、従来のCF療法よりも治療成績が改善することを明らかにしました。
この研究の成果は、DCF療法が日本における切除可能な食道がんの術前化学療法の標準治療となり、ガイドラインに掲載されました。

「がん研究のこれまで ~総括~」
革新がん事業PS 名古屋医療センター 直江 知樹 先生

直江先生は先生方の成果について、以下のようにまとめられました。
○清田先生:臨床試験に患者さんが参加することが重要であること
○加藤先生:手術、化学療法、放射線療法が、どういう組み合わせで、
      どういう順番で行うとよいのかを明らかにし、世界に
      発信したこと
○後藤先生:これまで非小細胞肺がんは治療法が一つであったものが、
      ドライバー遺伝子が同定されたことによって、個別化医療に
      つながっている、非常に勇気づけられる話でであること
最後に「臨床試験を進めるためには、患者さんやご家族のご協力が不可欠です。これまでご協力をいただいた方に敬意を表するとともに、今後ともご理解をいただけますよう、お願いいたします。」と締めくくりました。

3.AMEDがん研究について

AMED疾患調査役 芳賀めぐみ(写真:左)の進行で、AMEDの前DCである国立がん研究センター 名誉総長 / 名古屋医療センター 名誉院長の堀田知光先生(写真:中央)、現DCの国立がん研究センター 理事長の中釜斉先生(写真:右)より、昨年度までのがん研究10か年戦略の振り返りと、今年度からスタートしたがん研究10か年戦略(第5次)で目指す成果、課題の克服について座談会形式でお話をうかがいました。

国立がん研究センター 名誉総長 / 名古屋医療センター 名誉院長 堀田知光先生(左)

これまでの10年を振り返って「10年前には、ゲノム医療やリキッドバイオプシーという言葉はまだ一般的ではなく、分子標的薬やQOLということが主要な話題であったと思います。そこから考えると技術的にも治療内容にも非常に進歩があります。」とお話しされました。また、9年前にAMEDが設立されたことで、日本のがん研究を支える仕組みが変わってきたことに言及されました。

疾患領域がんDC 国立がん研究センター 理事長 中釜斉先生(右)

「新しい適切な治療、標準治療の確立、がん細胞をピンポイントで治療する分子標的薬の開発が具体的に進んできました。また、患者さんの立場に立った支持療法、緩和ケア、副作用の軽減といったものが確実に研究として取り上げられ、その成果が医療に実装されてきた10年でした。加えて、それらの研究開発を支えるAMEDが設立されたことにより、基礎的な研究の成果を患者さんへ届けるために、ゴールを明確にしながら研究開発を進める仕組みができたと思います。」と、これまでの10年間と、AMED設立後のがん研究の進め方について振り返りました。

堀田先生から、中釜先生へ、「これまでのがん研究10か年戦略では、根治、予防、共生という流れで研究開発を行ってきた。これからの10年は、どのような流れになるだろう」と問いかけたところ、中釜先生は、「これまでは、発がん要因を見つけるという大きな研究テーマがあった。最近のゲノム解析に基づく研究開発では、その結果から、どういうリスク要因を蓄積していき、具体的な予防法はなにか、どのように介入していくのか。個人のリスクに寄り添った予防、ということが重要なテーマとなっている。また、治療に対する抵抗性の克服、新しい治療法の技術開発、早期治療についても研究の重要性が増してくる」と述べました。
最後に、「がんの克服を目指し、みなさまのご協力を得ながら、さらなる取り組みを進めて参りたい。」とAMEDの芳賀疾患調査役がまとめました。

4.がん研究のこれから

AMED次世代がん医療加速化研究事業(以下、「次世代がん事業」)プログラムオフィサー(PO)の金沢大学 大島正伸先生(写真:左)が座長を務め、日本医科大学の本田一文先生、京都大学の滝田順子先生、山口大学の玉田耕治先生の3名の先生よりがん研究の将来を見据えた成果についてお話しいただきました。また、「がん研究のこれから」を総括して、AMED次世代がん事業(PS)の理化学研究所 理事/東京大学 教授の宮園浩平先生より3名の先生方の発表をまとめていただきました。

「健康保険で利用できる膵がん血液腫瘍マーカーの開発と膵がん検診への応用に向けて」
日本医科大学 本田 一文 先生(右)

日本において膵がんは罹患数が年々増加しており、他の臓器に発生するがんに比べて予後が悪いことが知られています。がん統計2022において、早期に膵がんを発見し、手術で切除することにより患者の予後が大きく改善出来ることが報告され、膵がんを早期発見できる診断方法の開発が望まれています。本田先生からは、企業と合同で製造販売承認を取得された膵がんの診断を補助する血液バイオマーカー ApoA2検査キットの開発経緯についてご発表いただきました。本田先生は、「本検査キットががん検診に有効であることが示され、膵がんで苦しむ患者さんやご家族の一助になればと思います」とお話しされました。

「難治性小児がんの分子病態の解明に基づく新規治療法の開発」
京都大学 滝田 順子 先生(右)

小児にとってがんは非常にまれな疾患ですが、小児がんは乳児期を除くあらゆる年齢層において、小児の死亡原因の上位を占めており、少子高齢化が進行する我が国において、小児がんの克服は早急に取り組むべき重要な課題です。滝田先生には、小児がんの治療の状況や、特に晩期合併症に代表される副作用などの課題、ならびに現在取り組んでいる遺伝子解析データに基づいた研究についてご発表いただきました。滝田先生は「新しい治療法の開発が進むことで子どもの笑顔を増やしたい」と締めくくられました。

「固形がんに対する新規CAR-T細胞療法の研究開発」
山口大学 玉田 耕治 先生

免疫チェックポイント阻害剤の登場により、がん免疫療法は、外科手術、放射線療法および化学療法と並ぶ第4のがん治療法と考えられています。近年、遺伝子導入したT細胞(CAR-T細胞)を用いた治療法が臨床応用されていますが、血液がんに対する有効性は認められている一方で、固形がんに対して有効性を示すCAR-T細胞はこれまでにありませんでした。今回、玉田先生からは、固形がんを対象に進めている新規CAR-T細胞療法の研究開発について発表があり、「現在実用化を目指した臨床研究を進めている」とのことでした。近い将来、これまでに治療法の無かった固形がんの患者さんに新しいCAR-T細胞療法が届くことが期待されます。


「がん研究のこれから ~総括~」
次世代がん事業PS 理化学研究所/東京大学 宮園 浩平 先生

がんの治療がこの20年、30年で大きく変わってきました。それらについて、皆さんに知っていただくこと、勉強していただくことも重要ですが、「がん研究のこれから」でご発表いただいた3名の先生方には、難しい話を本当に分かりやすくお話しいただいたと思います。
AMEDが出来て一番良かったことは、がんの基礎研究者が研究成果を臨床までどうやって持って行くかを考えるようになったところにあると考えています。継続して、こうした研究者の取組みについて紹介させていただき、皆さんからの意見を聞かせていただきたいと思います。

今後もAMEDでは長期的視点を持って、戦略的にがんの研究を推進し、研究成果を一刻も早く実用化して、患者さんやご家族のもとにお届けすることを目指していきます。


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