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【イベント☆レポート】「我が国の脳科学研究の成果と展望」AMED-NEURO2024 共催ランチタイムシンポジウム

AMEDは、令和6年(2024)度から新しく「脳神経科学統合プログラム」を開始しました。このプログラムは、脳のメカニズムおよび疾患の病態メカニズム解明等を進めるとともに、数理モデルの研究基盤(デジタル脳)等も整備し、神経疾患・精神疾患の画期的な診断・治療・創薬等シーズの研究開発を目指します。

これまでの「脳とこころの研究推進プログラム」で得られた革新技術・研究基盤の成果を発展させ、6年間の大型国家プロジェクトとして推進します。
AMEDは、これをひとつの機会としてとらえ、今回のシンポジウムにおいて、AMEDにおける我が国の脳科学研究のこれまでの成果とAMEDでの成果も踏まえての今後の展望を紹介することを目的に、「我が国の脳科学研究の成果と展望」と題したシンポジウムを企画・開催したものです。
岡部繁男先生(革新脳プログラムスーパーバイザー)には、「基礎研究・基盤技術の成果と展望」の観点から、髙橋良輔先生(脳統合プログラムスーパーバイザー)には、「疾患研究の成果と展望」の観点からご講演いただきました。

NEURO2024は、日本神経科学学会(JNS)第47回大会、日本神経化学会(JSN)第67回大会、日本生物学的精神医学会(JSBP)第46回大会、第8回アジア・オセアニア神経科学学会連合(FAONS)の4学会合同大会であり、日本最大級の脳神経科学研究の学術集会です。今回、AMEDは共催させていただき、会場は脳神経科学研究者や企業関係者等で満席となり、ステージとフロア全体で活発な討論が行われました。


1.   脳神経科学統合プログラムについて

AMEDは、これまで「脳とこころの研究推進プログラム(革新脳、国際脳、疾患メカ、横断萌芽)」を推進してきましたが、これを改組して、令和6年(2024)度より新しく「脳神経科学統合プログラム(脳統合)」を開始しました。政府の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和5(2023)年6月閣議決定)に基づき、基礎と臨床の連携やアカデミアと産業界との連携、および国際的なネットワークの強化により、これまでの革新技術・研究基盤の成果を更に発展させ、脳のメカニズムおよび疾患の病態メカニズム解明を進めるとともに、数理モデルの研究基盤(デジタル脳)も整備し、認知症をはじめとする神経疾患・精神疾患の画期的な診断・治療・創薬シーズの研究開発を推進します。


2.シンポジウム概要

本シンポジウムでは、革新脳プログラムスーパーバイザー岡部繁男先生と脳統合プログラムスーパーバイザー髙橋良輔先生を招いて、これまで実施した革新脳10年間と国際脳6年間で、最先端のテクノロジーを開発・駆使し、脳の複雑なしくみや病気の理解を進んだ研究成果を解説いただきました。さらに、これまでの成果を新たに始まった脳統合でどのように発展させ、神経疾患・精神疾患の画期的な診断・治療・創薬シーズの研究開発に繋げていくのか、その将来展望を基礎研究・基盤技術と疾患研究のそれぞれの視点から紹介いただきました。


3.基礎研究・基盤技術の成果と展望

はじめに、AMED革新脳プログラムスーパーバイザー(PS)の東京大学大学院医学研究科教授岡部繁男先生から「基礎研究・基盤技術の成果と展望」についてお話いただきました。

《講演内容》
革新脳が発足した当時は、平成25(2013)年から米国ではBrain Initiative、EUではHuman Brain Projectが立ち上がっていまして、革新脳は翌平成26(2014)年度から開始されました。これが世界の潮流を呼び、その後、主要各国で大型脳研究プロジェクトが立ち上がることとなりました。このような世界情勢の中で、革新脳は、文部科学省系の事業としては例の少ない10年間という長期間に一定の環境で推進することなり、平成30(2018)年度には姉妹事業として国際脳も開始され、大きな成果が創出されました。

本講演では、革新脳発足時に4つの主要な検討課題が議論されて、(1)階層のギャップを埋める、マクロからミクロをつなぐ技術開発、(2)非ヒト霊長類であるマーモセットをモデルとした前頭前皮質の回路マッピングの完成、(3)前2項目のための革新的技術開発、(4)疾患バイオマーカーの開発を推進することとなった経緯を説明いただきました。革新脳と国際脳の代表的な成果として、新しい顕微鏡やPETプローブの開発などの技術開発が進めることができて、前頭前皮質および大脳皮質のトレーサーマップも研究が進み、マクロとミクロのギャップが埋まりつつあること、アルツハイマー病を含む数多くの疾患モデルマーモセットが作出され解析が進められていること、国際脳ではヒトの脳画像データの取得が進み、これをAI解析し、診断や治療につなげていく研究も進んでいることが紹介されました。

講演の最後には、革新脳や国際脳の研究成果と昨今のオープンサイエンスの大きな流れを踏まえた脳科学研究の将来展望として、個別研究によるスモールサイエンスから取得データを皆で利活用し知識を広めていくビッグサイエンスへの変化への期待と課題について考察いただきました。


4.疾患研究の成果と展望

続いて、AMED脳統合プログラムスーパーバイザー(PS)の京都大学京都大学学術研究展開センター特定教授髙橋良輔先生から「疾患研究の成果と展望」についてお話いただきました。

《講演内容》
髙橋先生には、革新脳、国際脳で得られた数々の研究成果について、疾患研究の視点から紹介いただき、今後の課題と展望について考察いただきました。

神経疾患に関しては、パーキンソン病やアルツハイマー病では発症前の前駆期やプレクリニカル期が知られていることから、早期診断が出来るようになり疾患修飾治療を行うことができるようになれば発症予防や発症遅延の効果が期待できるのではないかと考えて研究が進められています。革新脳では疾患モデルマーモセットが作成され、各神経変性疾患に特有の異常タンパク質の「伝播」についても、ヒト症状を再現した良いモデルが作出されており、今後の研究推進にも大きく貢献できると思われます。疾患脳に蓄積する異常タンパク質を可視化するPETプローブも開発され、病態鑑別への有用性や、異常タンパク質の蓄積と病態が関係することなどが示されました。更に、血中に微量存在する異常タンパク質の検出を可能とする高感度の技術も開発されました。

精神疾患については、一つの遺伝子が原因ということではなく複雑な要因が絡んでいることが多いことがわかってきています。そこで、ヒト研究のデータを疾患モデル動物で検証することに加え、疾患モデル動物からヒトへの双方向トランスレーションアプローチを推進することにより、疾患の病態や病因の解明を目指してきました。革新脳では、このアプローチにより、統合失調症の慢性期の26%に大脳基底核の淡蒼球と呼ばれる部位に増大が見られることを見いだしました。また、動物モデルを使って、精神疾患とDNAメチル化やヒストンタンパク質のメチル化・アセチル化などのエピゲノム修飾との関係性が示されました。さらに、神経伝達物質やゲノム変異からのアプローチを加え、精神疾患の神経回路・分子病態が統合的に解明されてきました。
講演の最後に、今後の我が国の疾患研究がめざすところとしては、動物とヒトをつなぐ脳研究を推進して、世界的に利用されるようなデータベースを構築し、日本発の新しいメカニズムに基づく治療薬の開発に繋げるという将来展望を紹介いただきました。

5.まとめ

脳科学研究は、脳の発達・老化の制御ならびに精神・神経疾患の病因解明および予防・治療法の開発を可能にするとともに、失われた身体機能の回復・補完を可能とする技術開発につながり、医療・福祉など国民生活の質の向上に最も貢献できる研究分野の1つです。

AMEDは、今後も長期的視点を持って戦略的に脳科学研究を推進することとしていて、脳のメカニズム、病態のメカニズム解明の促進、数理モデルの研究基盤(デジタル脳)の整備、画期的な診断・治療・創薬シーズの研究開発を推し進め、この分野/領域の認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病や精神疾患等に関する研究成果を一刻も早く実用化し、患者さんやご家族の元にお届けすることをめざしていきます。


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